アプリエンジニアの終焉:次の10年が「AIエージェント」ビルダーの時代である理由

私たちは今、1999年や2009年に匹敵する歴史的な転換点に立っています。静的なアプリを作る時代は終わりを告げ、自律型エージェントの時代が到来しました。自ら意思決定を行うエージェントを構築できなければ、想像以上に早く、時代に取り残されてしまうかもしれません。

アプリエンジニアの終焉:次の10年が「AIエージェント」ビルダーの時代である理由
Feng LiuFeng Liu
2025年12月19日

歴史は不思議なほど韻を踏むもので、それは決まって私たちが現状に安住しきった頃に起こります。

90年代後半を想像してみてください。HTMLと少しのPerlやPHPを格闘させながら機能するWebサイトを作れたなら、あなたは魔法使いでした。「Webエンジニア」として、世界はあなたの思いのままでした。インターネットという名の店舗を、あなたが構築していたのです。

時計の針を2009年に進めましょう。iPhoneが世界をこじ開けた瞬間です。突然、誰も静的なWebサイトなど気にかけなくなりました。エネルギーはObjective-CとJavaへとシフトしました。「モバイルアプリエンジニア」こそが未来を書いていました。人々がポケットに入れて持ち歩くツールを、あなたが作っていたのです。

そして今、2024年を見てください。空気は再び薄く、停滞しているように感じます。アプリストアは飽和し、Webは混雑しています。しかし水面下では、地殻変動が起きています。私たちは「インターフェース」の時代を去り、「エージェント」の時代へと突入しようとしているのです。

これからの10年、最も価値ある肩書きは「フルスタックエンジニア」でも「iOSエンジニア」でもありません。それは AIエージェントエンジニア(AI Agent Engineer) になるでしょう。

新たな地殻変動

これは単なるフレームワーク戦争でもなければ、学ぶべき新しいプログラミング言語の話でもありません。これは、「誰が」仕事をするのかという根本的な変化です。

過去20年間、ソフトウェアエンジニアリングとは、人間がクリックするための明確で決定論的な(deterministic)パスを作ることでした。あなたがボタンを作り、人間がそれをクリックし、コードが関数を実行する。人間が「脳」であり、ソフトウェアは「筋肉」でした。

その力関係が逆転しようとしています。

エージェントの時代において、ソフトウェアは「脳」を提供します。あなたの仕事はもはや、人間がクリックするためのボタンを作ることではありません。あなたの仕事は、「いつ」ボタンをクリックすべきかを判断する、あるいはボタンなどそもそも不要だと判断できる「デジタルな従業員」を作ることなのです。

私は10年以上プロダクトを作り続けてきましたが、今、足元の地面が動いているのを感じます。もし今日、あなたに仕え、ワークフローを自動化し、あるいは顧客にサービスを提供するエージェントを書くことができれば、あなたは1999年にビジネスをオンライン化する方法を学んだばかりのあの若者と同じレバレッジ(てこ)を手にしていることになります。

しかし、ここに厳しい現実があります。もしこれを学ぶことを拒否し、純粋に決定論的なコーディングだけに固執するなら、あなたはDTP(デスクトップパブリッシング)時代の「植字工」のような存在になってしまうリスクがあります。

魔法の正体:ツールとコンテキスト

人々は「AIエージェント」と聞くと、スカイネットや、とてつもなく複雑なニューラルネットワーク・アーキテクチャを想像します。そのノイズを取り払いましょう。

エージェントを作ることは魔法ではありません。エンジニアリングです。そしてそれは、突き詰めれば ツール(Tools)コンテキスト(Context) の2つに集約されます。

多くの開発者がこれを難しく考えすぎています。モデルをトレーニングする必要があると思っているのです。その必要はありません。Claude、GPT-4、Llamaといったモデルはすでに十分に賢いのです。あなたの仕事は、彼らに「手」と「記憶」を与えることです。

1. ツール(モデルに手を与える)

大規模言語モデル(LLM)は、いわば「瓶の中の脳」です。思考することはできますが、世界に触れることはできません。「エージェント」とは、単にAPIエンドポイントやCLIコマンドへのアクセス権を与えられたLLMに過ぎません。

あなたはモデルにこう伝えます。「ここに list_files というツールがある。ここに read_file というツールがある。そして send_email というツールがある」と。

2. コンテキスト(モデルに指示を与える)

次に役割を定義します。「あなたはシニアQAエンジニアです。あなたの目標は、このリポジトリにある型エラーを修正することです。」

これだけです。これがコアとなるループです。

CursorやClaude Codeを使ったことがあるなら、この動作を見たことがあるはずです。あなたは編集作業を細かく管理しません。「utils.ts の型エラーを直して」と言うだけです。

エージェントは考えます:よし、まずはファイルを見る必要があるな。 そして ls ツールを使うことを決めます。次に grepread を使うことを決めます。エラーを見つけます。修正コードを書くことを決めます。そしてコンパイラを実行して自分の仕事をチェックします。

これがブレイクスルーです。もはや単なる「チャット」ではありません。「意思決定のループ」なのです。モデルは、あなたが与えた問題を解決するために、どのツールを手に取るべきかを自ら選択しているのです。

スマートフォンやWebブラウザなどの従来のソフトウェアから現代のAIエージェントへの進化を描いたデジタルアート

チャットボットから意思決定エンジンへ

過去2年間、私たちは「チャット」のフェーズに閉じ込められていました。AIを賢い司書のように扱い、質問をして、答えをもらうだけでした。

そのフェーズは終わりつつあります。

エージェントのフェーズは 実行(Execution) がすべてです。CLIを、人間がタイプするための場所としてではなく、モデルのための遊び場として捉えるのです。

スタートアップにとっての意味を考えてみてください。以前なら、顧客への返金処理を行うサービスを作りたければ、UIを作り、バックエンドを作り、データベースを作り、そしてボタンをクリックするサポートチームを雇う必要がありました。

今日、私はエージェントを書くことができます。StripeのAPI(ツール)とメール履歴(コンテキスト)へのアクセス権を与えます。そしてポリシーを与えます。「ユーザーが不満を持っており、かつ7日以内であれば返金せよ」。エージェントは受信メールを読み、条件を満たすか判断し、Stripeの返金ツールをトリガーし、返信メールの下書きを作成します。

UIは不要です。サポートチケットの行列もありません。あるのはゴールと、一連のツールだけです。

エージェント構築の「泥臭い過渡期」

ここで理想郷を描くつもりはありません。私は過去半年間、エージェント構築の最前線(泥沼)にいましたが、正直に言えば「カオス」です。

従来のコーディングは論理的です。If X then Y(もしXならYせよ)。動くか、壊れるかです。

エージェントエンジニアリングは確率的です。エージェントを作り、ツールを与えても、時としてそれは窓を開けるためにハンマーを使おうとします。存在しないパラメータを幻覚(ハルシネーション)として生み出すこともあります。

ここにこそ、新しいスキルセットの真髄があります。

エージェントエンジニアであるということは、単にPythonスクリプトを書くことではありません。以下のようなスキルが求められます:

  • アーキテクチャとしてのプロンプトエンジニアリング:モデルの振る舞いを制約するためのシステムプロンプトを設計する。
  • 評価駆動開発(Eval Driven Development):「創造性」に対してユニットテストを書くことはできません。そのため、エージェントがタスクにどれだけ成功したかを測定する評価パイプラインを構築します。
  • ツール設計:モデルが混乱せずに理解できるほど「クリーン」なAPIインターフェースを作成する。

私は、エージェントが自分で作ったバグを直そうとして無限ループに陥るのを見てきました。自信満々に間違ったファイルを削除するのも見ました。これが現実です。しかし、こうした摩擦を解決することにこそ、価値が生まれるのです。

実践的アドバイス:今日から始めるために

もし私が今日ゼロから始めるとしたら、あるいはキャリアのピボット(方向転換)を考えているとしたら、まさに以下のことを実行します:

  1. GUIを作るのをやめる:少なくともサイドプロジェクトでは。フロントエンドなしで問題を解決してみてください。CLIとLLMだけで解決できますか?
  2. インターフェースプロトコルを学ぶ:OpenAIのFunction CallingやAnthropicのTool Useがどう動くのかを理解してください。これはエージェント時代のTCP/IPです。
  3. 「話すボット」ではなく「行動するボット」を作る:カレンダーについて質問に答えるボットではなく、カレンダーを 管理する ボットを作ってください。イベントを削除する権限を与えてください。AIに書き込み権限(Write Access)を与える恐怖を感じてください。その時こそ、本当の学習が始まります。
  4. コンテキスト管理をマスターする:コンテキストウィンドウを溢れさせずに、適切な情報を詰め込む方法を学んでください。RAG(検索拡張生成)はほんの始まりに過ぎません。

目の前にあるチャンス

私たちは今、たった1人の開発者が、専門化されたエージェント軍団を率いて、20人規模のスタートアップと同じ仕事をこなせる未来を見据えています。

「創造」への参入障壁はゼロに近づいています。しかし、これらの頭脳をどう繋ぎ合わせるかという「オーケストレーション(指揮・統合)」の参入障壁こそが、新しい「堀(Moat)」になりつつあります。

10年前、あなたはコードを書くために雇われました。 今日、あなたはコードを書くシステムを設計するために雇われるのです。

電車はすでに駅を出発しています。古いフレームワークを握りしめてプラットフォームに立ち尽くすか、飛び乗って線路を敷くのを手伝うか。

さあ、作りましょう。

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Feng Liu

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shenjian8628@gmail.com

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