「Vibe Everything」の時代:ハードワークの定義が永遠に変わった理由

仕事の本質は「実行」から「意図」へとシフトしています。私たちは今、単なるコーディングから、AIにビジョンを伝えて実装を任せる「Vibing(バイブ)」の時代へと移行しています。これこそが、たった一人でユニコーン企業を築き上げるための道筋です。

「Vibe Everything」の時代:ハードワークの定義が永遠に変わった理由
Feng LiuFeng Liu
2025年12月7日

Vibe Codingから「Vibe Company」へ:AI時代の新しい構築論

Andrej Karpathyが最近提唱した「Vibe Coding(バイブ・コーディング)」という言葉が、僕の頭から離れません。これは、人間がもはや構文(シンタックス)そのものを書くのではなく、プロンプトや意図、そして**Vibe(バイブ/雰囲気)**を書き、機械が実装を担当するというシフトを表しています。

しかし、今スタートアップのエコシステムで起きていることを注意深く観察すれば、これが単なるコードの話ではないことに気づくはずです。これは、あらゆる領域に関わる話なのです。

私たちは今、「実行の障壁(Execution Barrier)」の死と、「Vibe Economy(バイブ経済)」の誕生を目撃しています。

創業者の従来のワークフローを思い浮かべてみてください。アイデアがある。それを細分化する。UIのためにデザイナーを雇う。バックエンドのために開発者を雇う。コピーライティングのためにマーケターを雇う。そして、引き継ぎやコミュニケーションの齟齬、品質管理に何週間も費やす。摩擦は大きく、失敗した時のコストは甚大です。

さて、そのモデルをひっくり返してみましょう。近い将来――正直に言えば、実験的なレベルでは「現在」すでに――ワークフローは全く異なるものになります。タスクをこなす人間を管理するのではなく、それを実行するエージェントたちのVibeを管理するようになるのです。

Vibeの解剖学

「Vibe(雰囲気)で仕事をする」とは、実際にはどういうことでしょうか? 緩くて、ヒッピーのような響きがあるかもしれませんが、実はこれ、極めて厳密で技術的な現実なのです。

この新しい構築方法について語るとき、私たちはChatGPTに「Facebookのクローンを作って」と打ち込んで、あとは運任せにするような話をしているのではありません。シニアエンジニアやプロダクトマネージャー(PM)の振る舞いを模倣する、洗練されたエージェント・ループについて話しているのです。

そのプロセスを紐解くと、実際には次のような形になります:

  1. 意図の設定(The Vibe): モデルに対して、手順ではなく「結果」に焦点を当てて、が欲しいのかを伝えます。
  2. 分解(Decomposition): モデルは単にコードを実行するだけでなく、複雑なリクエストを細かい要件(マイクロ・リクワイアメント)に分解します。
  3. ツールの選択: 必要なツールを分析します(Webブラウジングが必要か? データベースへのアクセスが必要か? 画像生成が必要か?)。
  4. 実行と生成: todos(やるべきこと)を生成し、コードを書き、コピーの下書きを作成します。
  5. 検証: これが多くの人が見落としている重要なステップです。モデルは「レビュー環境」に入り、自分の仕事をテストします。コードはコンパイルできるか? デザインはモバイルで崩れていないか?
  6. 統合(Merging): マルチスレッドで進行したタスクを、一つの成果物としてまとめ上げます。
  7. 人間の承認: 最後にあなたがゴーサインを出します。

これが、チャットボットと「同僚」の違いです。そして、このループをスタートアップのあらゆる部門に適用したとき、事態は劇的に面白くなります。

コードを超えて:Vibe Company(バイブ・カンパニー)

今のところ、世間の注目はCursorやDevinのようなコーディングアシスタントに集まっています。しかし、一人のビルダーとして僕がより興味を持っているのは、これが水平方向に広がった時に何が起きるかということです。

Vibe プロダクトマネジメント

Jiraのチケットを書く苦痛は誰もが知っています。それは必要な官僚主義的「悪」です。しかし、「Vibe PM」を想像してみてください。ユーザーインタビューの書き起こしをアップロードし、「ユーザーがチェックアウトのフローで混乱している。これに対処するように仕様を修正して」と言うだけです。エージェントは摩擦点を分析し、PRD(製品要件定義書)を更新し、チケットを作成し、インパクトに基づいて優先順位を付けます。あなたはチケットを一枚も書いていません。ただ問題を特定しただけです。

Vibe マーケティング

マーケティングとは、多くの場合、仮説検証をスケールさせることです。「Vibe Marketer」エージェントは、単にツイートを書くだけではありません。「AWSの請求額にうんざりしている開発者兼創業者にリーチしたい」というゴールを与えます。するとエージェントはトレンドのトピックをリサーチし、広告コピーのバリエーションを20個作成し、それに伴うビジュアルを生成し(Vibe Design)、A/Bテストのパラメータを設定します。あなたの仕事はコピーを書くことではなく、どの「声(Voice)」でいくかを選ぶことです。

Vibe テスティング

品質保証(QA)は通常、スピードが殺される場所です。Vibeセットアップでは、テストは自律的に行われます。エージェントはブラウザを立ち上げ、あなたが作ったばかりのユーザージャーニーをクリックして進み、エラーのスクリーンショットを撮り、コードを修正し、テストを再実行します。すべてのシグナルが「グリーン(正常)」になった時だけ、あなたに報告が来ます。

これらが行き着く先、それが究極の結論である 「The Vibe Company」 です。

リスクの崩壊

ポール・グレアムはよく、過去20年間でスタートアップを始めるコストがいかに劇的に下がったかについて語っています。数百万ドル(サーバー購入)から数千ドル(クラウド)へ。そして今、私たちは漸近線に近づいています。つまり、ゼロです。

Vibe Design、Vibe Coding、Vibe Marketingが揃えば、アイデアをテストするコストはもはやお金ではありません。それは単に「集中力(Focus)」だけの問題になります。

僕も過去にプロダクトをローンチした際、MVP(実用最小限の製品)を作るのに3ヶ月と2万ドルの外注費をかけたことがあります。そのプロダクトが失敗した時、それは「悲劇」でした。今日、僕は同じMVPを、AIツールを使って週末に、数ドルのAPIクレジットだけで立ち上げることができます。もし失敗したら? それは悲劇ではありません。単なる「データポイント」です。

これは会社を設立する心理を根本から変えます。実行のリスクが下がれば、アイデアそのものに対してより大きな賭けに出ることができます。「失敗は高くつく」からといって安全策をとる必要はありません。失敗は今や、安いのです。

罠:誰もがスーパーパワーを持つ時

しかし、ここで少しの間、あえて「DHH(David Heinemeier Hansson)」のような立場をとって、この熱狂に冷や水を浴びせる必要があります。

もし誰もが「Vibe Company」を作れるなら、単に「作れること」はもはや競争優位性にはなりません。

私たちは 「どうやってこれを作るか?」 という時代から、「何を作るべきか?」、そしてより重要な 「それは良いものなのか?」 という時代へと移行しています。

実行がコモディティ化する時、「センス(Taste)」 こそが唯一の堀(Moat)となります。

僕はすでにこの現象を目の当たりにしています。完璧に機能するけれど、どこか魂の抜けたAI生成アプリが市場に溢れかえっています。それらには「意見」がありません。技術的に問題は解決していても、感情的な部分で失敗しています。プロダクトを定着させるための人間的なタッチが欠けているのです。

この新しい時代に勝つ創業者は、必ずしも最高のエンジニアであるとは限りません。彼らは最高の 「キュレーター」 になるでしょう。彼らは最高の「Vibe」を持つ人々――つまり、最も明確なビジョン、ユーザーが何を求めているかに対する鋭い直感、そして品質に対する最も高い基準を持つ人々になるはずです。

実践的テイクアウェイ:Vibeシフトを生き抜くために

もしこれを読んで不安を感じているなら、その必要はありません。これは私たちが手にした史上最大のレバレッジです。ただし、今日の働き方を変える必要があります。

  1. 構文(シンタックス)の崇拝をやめる: もしあなたがプログラミングを学んでいるなら、構文の暗記ではなく、システムアーキテクチャとロジックに集中してください。構文はAIが処理します。「Vibe Coding」エージェントを効果的に指揮するために、部品がどう組み合わさるかを理解する必要があります。

  2. 「センス」を磨く: これがあなたの新しい資本です。優れたプロダクトを研究してください。なぜ特定のデザインが心地よく感じるのかを理解してください。AIが5つの選択肢を生成した時、勝ちパターンを選び取る能力こそが、あなたの提供価値のすべてになります。

  3. 「プロンプティング」をマネジメントとして実践する: AIツールを優秀なインターンのように扱ってください。もし出力が悪ければ、自分で修正するのではなく、「私の説明のどこが悪かったのか?」と問いかけ、指示を洗練させてください。これらのエージェントを指揮することを学ぶのが、次の10年における必須スキルです。

  4. 「Vibe Project」を始める: 待っていてはいけません。今週末、自然言語のプロンプトとAIツールだけを使って、何か小さなものを作ってみてください。摩擦を感じてください。どこで破綻するかを見てください。この新しいワークフローに対する「筋肉の記憶(マッスルメモリー)」を鍛える必要があります。

未来はパーソナルなものになる

僕はかつて、大きな会社を作るためには、人を管理するマネージャーにならなければならないと思っていました。プロダクト作りから離れ、人事問題や採用パイプラインの管理をしなければならないことを恐れていました。

「Vibe Everything」の約束は、ビルダーがビルダーのままでいられるということです。私たちは官僚になることなく、巨大で複雑なオペレーションを動かすことができます。スケール(規模)の部分はAIに任せ、私たちはプロダクトの「魂」に集中することができるのです。

ツールは揃いました。障壁は消えました。足りないのは、あなたの「Vibe」だけです。

さて、あなたは何を作りますか?

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Feng Liu

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shenjian8628@gmail.com

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